社外取締役と株主の対話

持続的な企業価値向上を実現するため、当社は適切な意思決定を担保する、実効性のある取締役会を備えています。
当社のガバナンスに関するトピックを中心に、社外取締役が幅広く考えを述べた対話会の様子を紹介します。

当社は、社外取締役及び取締役会長が主要株主と直接対話し意見交換する機会として、「ガバナンス・ミーティング」を2022年度に初めて開催しました。
経営戦略の策定・監督、報酬・指名、リスク管理、次期経営計画のことなど、5名の機関投資家の皆様による忌憚のない質問に対し、社外取締役3名と池田会長が回答いたしました。


Q1 商船三井の社外取締役として日頃から特に気を付けていること、重視していることを教えてください。

藤井 私が当社の社外取締役として重視する点は2つあります。
一つは、当社が経済安全保障の一翼を担う社会インフラ事業を営んでいること。事業採算の観点のみならず、社会的な意義、また不測の事態が起こった時にどう対応するかまで、総合的に考えていくことが必要だと考えています。残念ながら未だ十分に認識されているとは言いがたいのですが、政府はもとより社会的にも、海運が経済安全保障の一環との位置づけが、今まで以上に強く求められていると思います。

以前は資本に対しリスクの量が多く、いかにコントロール可能な範囲に抑え込むかが焦点でしたが、最近の業績好調により資本とリスク量は逆転を見せています。今後の経営計画では、獲得した資本をいかに有効活用するかが求められます。

もう一つは、説明責任です。独りよがりの情報発信ではなく、各者各様のステークホルダーの皆様にわかりやすく工夫することが責任であると考えます。その観点からも、本日ご出席の機関投資家の皆様から、関心の強い情報内容は何か、また、発信の在り方について何がしか忌憚のない意見をいただければありがたいと思います。

 私が社外取締役として常に気を付けているのは、株主や投資家の皆様の代理として、独立した立場から経営を監督していくことです。その観点から私が社外取締役に就任した2016年以降を振り返ると、取締役会の実効性が年々大きく進化していると感じています。また、取締役会以外にも、指名・報酬両諮問委員会やコーポレート・ガバナンス審議会など、議論する機会・時間も大きく増えました。同時に、各会議体に付議される議案のセレクションがより実効的になり、取締役会が、単なるマネジメントボードの役割から戦略検討・監督型取締役会へと、明らかにシフトしていることを実感しています。

また、より個人的に重視している点は、企業価値の中長期的な拡大を実現するためのESGの高度化です。当社は外航海運分野でのGHG排出について革新的なネットゼロの目標を掲げていますが、例えば船員の就労環境など、環境課題のみならず社会課題についても注視しています。

加えて、リスク管理に関しては、従来の定量的な評価方法でカバーしきれない、突発的なリスクに対しても備えを行っていくことが一層重要になっていると考えます。

大西 私は、社外取締役として、様々なステークホルダーに対してお約束していることを、公明正大な方法で達成すること、また結果としてうまくいかない場合にも十分説明責任を果たすことが役割だと考えています。また、航空会社にいた人間として、海運と空運の違いはあっても安全文化と環境対策については就任当初から厳しい意見を言っています。それに対し、極めて前向きに対応していただき、提言したことの大半は成就できています。社外出身の私はいわば異文化ですが、商船三井には、「話を聞いてみよう」という姿勢がある。積極的に意見を言い合える自由闊達な企業風土、異文化に対する寛容性、先取の気風を表していると感じています。

社外取締役 藤井 秀人
三井住友トラスト・アセットマネジメント 手塚 裕一 氏
Q2 2020年度に実施した報酬制度改革について教えてください。また、取締役報酬の評価基準に気候変動対応も加えるべきではないでしょうか?

大西 20年ぶりとなる取締役報酬制度の改訂を2020年度に行いましたが、これまでの商船三井は市況型ビジネスの比重が高く、業績がその時々の情勢に左右されてしまうため、単年度業績に基づく評価方法は事業特性に見合っていないと言われていました。

そこで今回の改訂では、全体の40%を占める変動報酬の半分を単年度業績報酬とし、もう半分は長期目標貢献報酬としました。また、後者を金銭ではなく株式報酬としました。その結果、長期的目線で取り組まなくてはいけない事柄に対する「今」の努力を評価に反映させられるようになったとともに、株主の皆様の視点に近づけたと感じています。また、全ての取締役の評価に「安全」に関する成績を組み込むことで、更なる意識づけ強化を行うことができました。

 気候変動対応を評価基準に組み入れていくことに関しては、私も非常に重要であると考えています。実は、現状の制度においても気候変動対応は評価の対象となっているのですが、実体的にはその他のESGへの取り組みと併せ、中長期個人目標の中で定性的に扱われるにとどまっています。

海運業を主力とする当社は、船舶の燃料使用により、多くのGHGを排出しています。従って、短期インセンティブや長期インセンティブの報酬制度にGHG削減に関する指標を入れてさらに対策を促していくこと、さらにそれらを開示していくことは、重要な課題であると認識しています。

Q3 指名諮問委員会、報酬諮問委員会で社長の評価をする際に、透明性確保のため、社長自身が退席する仕組みはあるのでしょうか?

 取締役の評価項目のうち単年度業績報酬は定量指標ですから、本人の在不在に関わらず評価できますが、定性的な判断が必要な長期目標貢献報酬の中の「個人目標」についての審議の場に社長ご本人がいることの是非、ということですね。現在、各取締役の評価は社長が行い、それを報酬諮問委員会に案として提出する形になっていますが、社長の評価についてのみ、会長がその内容を確認した上で提出されています。

現状では、社長の報酬を審議する際に退席するという仕組みにはなっていませんが、そうした問題意識は内部でも出ておりましたので、2023年度以降運用を改善していくこととなっています。

藤井 ステークホルダーの皆様によりご納得いただける形を考えれば、おっしゃる通りではあると思います。一方で、ここまでの話で感じていただけるかもしれませんが、我々社外取締役は取締役会において厳しい意見も辞さずに申し上げております。評価対象の社長本人がいるからといって、遠慮をすることはありません。

社外取締役 勝 悦子
アセットマネジメントOne 荒川 康 氏
Q4 次期社長を選任するための、サクセッションプラン策定について教えてください。

大西 社長のサクセッションプランについては、「社長に期待される結果に繋がる考え方や価値観、姿勢」「コンピテンシー」の2つの側面から基本方針を取りまとめました。実際に、この考え方に基づいて橋本社長を非常に円滑に選ぶことができ、きちんと機能する仕組みを作ることができたと思います。

藤井 サクセッションプラン策定の重要な成果は、後継者に求める人物像や求められる知見等が明文化され、選出の手順も含め、指名諮問委員会や取締役会メンバーの間で明確な共通認識を持てるようになったことです。

後継者選定には、独立した社長人事諮問委員会を活用する考え方もありますが、商船三井の社会インフラを担うというDNAを引き継ぐにふさわしい人物像を踏まえ、かつ候補者としての人となりを知悉しているのが社内出身者であると考えます。候補者選びについて地に足のついた議論をするには、現状の通り、社内・社外双方の取締役が参加する指名諮問委員会にて行うのが最善だと現時点では考えています。

Q5 スキルマトリックスの整備と、今後のボードサクセッションの考え方について教えてください。

大西 我々のアプローチは「商船三井の取締役会に必要な能力とは何か?」でした。従って、現行の取締役メンバーでは十分に充足できていないスキル項目も含んでいます。今後のボードサクセッションを検討する上では、不足している能力を埋められる人材を求めていくことになります。

藤井 その際に、重要と考えるのもまた、「わかりやすさ」の説明責任です。スキルマトリックスは取締役人選の指針であると同時に、取締役会が持つスキル体系を使ってコーポレートガバナンスやビジネスにどのように対応していくのかを示すための道具でもあります。マトリックスを用いて、ステークホルダーから信任をいただけるような説明をして行く必要があります。

また、ボードサクセッションは、重要な課題の一つです。その上で、敢えて誤解を避けるべく、付言して申し上げれば、だからと言って次代を担う若手役員候補群の在り方や選定については、指名諮問委員会として個別具体的に関わることは物理的にも事実上できないと思います。従って、妥当な承継計画を準備しているか、候補群をどのように確保しているか、その入れ替えはどのように行うかなど、枠組みについて監督し、アドバイスをしていくのが適切だと考えます。

さらにもう一点申し上げます。取締役会の適正な規模を考えると、必ずしも全てのスキルを内製化する必要はないと考えています。例えば、昨今の地政学的なリスクに対する知見は現時点では必要ですが、恒常的に必要なものとは限らない。こういったスキルに関しては必要に応じてアドバイザーを起用するなど、状況に応じて外部の力を活用し、充足していくことが弾力的であり、現実的な対策ではないかと思います。

社外取締役 大西 賢
ブラックロック・ジャパン 藤澤 正路 氏
Q6 取締役会の実効性をさらに向上させるため、機関設計の変更も検討されているとお聞きしています。どこまで議論が進んでいるか、教えてください。

大西 機関設計の変更については、昨年度設立した「コーポレート・ガバナンス審議会(CG審議会)」で議論を行ってきました。代表取締役3名と社外取締役3名に、社内外の監査役4名を加えた10名をメンバーとする、小規模で意見を言いやすい場です。ここで、目指すべき当社取締役会のあり方を議論した結果、個々の投資案件審議に注力するマネジメント型から脱し、戦略検討・監督型の取締役会へとシフトする方針を改めて確認しました。

その上で、具体的な方針を検討するに当たり、教科書的な知識ではなく、より実態に即した理解を深めるため、当社が現在採用している監査役会設置会社とは異なる機関設計をお持ちの企業3社の経営者をCG審議会にお招きし、ヒアリングとディスカッションを行いました。これにより、採用しうる他の機関設計への十分な理解を得ることができましたが、逆に現状の制度設計であっても当社が望む取締役会の姿は実現し得るとの気付きを得たため、結論としては現在の機関設計を維持することを選択しました。改善できる点をたくさん見つけたので、2023年度にかけて取り組んでいきます。

池田 私からも補足をさせていただきます。戦略検討・監督型の取締役会を実現するにあたり、現実的な課題となったのは「定型的な付議事項に時間を取られてしまう」ことでした。現在の機関設計は会社法上の必要性から決議すべき事柄が多いこと、また個別の投資案件に対する審議も多く、相当絞り込まないと戦略検討・監督に使う時間が確保できない状況だったのです。そこで、機関設計の変更で対処すべきか、既存の設計を維持しつつ運用方法の改善で対応すべきかを検討していました。

ご協力いただいた各社の経営者達からは、一様に「絶対的に優れた機関設計は存在しないので、自社に相応しい形を考えるべき」とのご助言をいただきました。また、様々な機関設計を採用していても、目指すところに大きな差はなく、戦略検討・監督型なんだ、ということが理解できました。その上で議論を尽くした結果、現時点では機関設計の変更は必ずしも必要条件でなく、監査役会設置会社でも運用の工夫によって十分に目指す取締役会の姿は実現できると結論づけました。

また、私としては、監査役会には「最後の防波堤」としての意義があると考えています。当社にお家騒動や不祥事の種があるわけではありませんが、万一取締役会が機能不全に陥った場合、歯止め役として独立した監査役会が存在することには大きな価値があります。

Q7 投資案件に関する取締役会の付議案件数について、具体的にどのように絞り込んでいるのでしょうか?

池田 投資案件の金額規模で絞り込んでいます。1件400億円を超える投資は取締役会の決議事項としています。今後は例えばLNG船のように、長期安定型事業で相対的にリスクは小さいものに関しては、権限委譲を進められるような仕組み作りを検討したいと考えております。

逆に、金額は400億円に満たずとも新規性のある投資についてはきちんと審議することにしています。例えば、エネルギーの上流領域に関わるものなど、今後のポートフォリオ戦略において重要な事業に関しては、執行任せにせず、取締役会で審議し、戦略を質していくということです。

Q8 温室効果ガスの大きな排出源となっているONE社を含む持分法適用会社についても商船三井自身の削減目標に含めて取り組んでいくべきではないでしょうか。

大西 少し話がずれますが、私がちょうどIATAという航空業界の世界団体の理事をしていた頃に、同団体は2020年のGHG排出量を上限としてその後は一切増やさないという大胆な基準を打ち立げて、結果として現在も業界はそのルールに従って運用されています。その経験から、私個人は「環境戦略は先手必勝」という信念を持っており、商船三井の中でも様々な意見を言ってきました。

そして理解をいただき、2021年には「環境ビジョン2.1」が策定されましたが、その際に私が素晴らしいと思ったのは、担当役員を決めただけでなく「環境・サステナビリティ戦略部」を設立し、担当役員にアカウンタビリティと実行部隊を持たせたことです。環境責任に対し、商船三井が実効性を重視したことは評価してよいと思います。

ご質問のONE社については、持分法適用会社として当社が31%の株式を持っており、当然ながら環境面の責任についても軽視しているわけではありません。ただし、支配力基準で決めた責任範囲というものがあります。ONE社は独自に環境目標や基準を設けていますから、株主としてその進捗をしっかりモニタリングしていくことが現時点においては当社の責任であると思っています。

Q9 今後のポートフォリオ戦略や社会変化を踏まえ、次期経営計画を実現するための人財計画について教えてください。

 当社は大変ユニークな仕組みを持っており、指名・報酬両諮問委員長、コーポレート・ガバナンス審議会会長が毎年ローテーションで交代します。2020年度に指名諮問委員長を務めた経験も踏まえてお話ししますと、次期経営計画を実現する人財の育成は、我々の戦略検討・監督の両面で重要なテーマです。市況型と安定型、また海運・非海運の事業区分で事業ポートフォリオを再構築していくにあたり、コーポレート部門、営業部門、海外部門の間で今後、人的リソースをどのように振り分けていくのか、どのような意思決定フローとすべきかなどが真剣に検討されてきました。

その一環として、2023年1月1日付で、今後の事業成長を支える人財戦略を推進・統括する組織として「Human Capital StrategyDivision」が新設されました。この組織を中心に、グループ会社や海外拠点採用の人財も含めた一元管理のもと、適材適所を考えながら育成を図っていくことになりました。今後は事業ポートフォリオの拡大とともに、人財も数と質の両面で増やしていくことになると思いますが、こうした経営計画と整合する形で進めていくことが最も重要になると思います。

併せて、外国人の登用や女性活躍の推進などのダイバーシティマネジメントでも、KPIを対外的に設定し、取り組んでいくことになります。また、研修や社内公募制度、エンゲージメント施策なども同様の取り組みを行い、それを中期計画にもフィードバックさせながら、中長期的な企業価値向上に資するよう、人財育成をさらに推進していく必要があると考えています。

りそなアセットマネジメント 近藤 靖 氏
野村アセットマネジメント 平野 成明 氏
Q10 2023年度から新たな中期経営計画が始まりますが、社外取締役として、どのように役割を果たしていかれるお考えですか?

藤井 2017年以降、2027年をターゲットとした1年更新のローリング型経営計画を運用し、ようやく本格的な中長期計画を打ち立てられる素地が整ってまいりました。長期的な計画であればあるほどステークホルダーに納得感を持ってもらうための工夫が必要に思いますので、明確な将来像、そこに至るマイルストーンとしてフェーズごとの行動計画やKPIを設定し、信頼に足るパッケージの計画にしていきます。

 近年は何が起こるかわからない不確実性の高い社会状況にあり、当社では柔軟性の高いローリング型経営計画を採用してきました。しかし、いよいよ確固たる中長期計画を掲げられる段階に入りましたので、経営において中長期計画で舵取りをしっかりと行い、それを監督していく、という社外取締役の役割もより重要になると考えています。

池田 当社では以前より「戦略・ビジョン討議」を、年間10回ほど実施してきました。3時間の取締役会のうち約1.5時間を充て、特定の事業についてなど毎回テーマを決めて戦略やビジョンを討議する場です。この枠組みを、2022年度は主に経営計画について議論する場として活用しています。

経営計画について、本当に一番最初の段階から大枠のところをまず取締役会で議論し、その結果に沿って執行側に具体的な作り込みを進めてもらっています。また、執行側の具体案に対し、比較的短いサイクルで取締役会のフィードバックを行いながら、策定作業を進めております。

Q11 最後に、リスク管理に対する考え方、並びにROICの導入など事業採算管理の高度化について、お考えをお聞かせください。

池田 ROICが指標として優れていることは議論の余地はないと思います。これまで我々の事業は海運業が中心であり、各分野の差が小さかったので、シンプルなROAによる管理で間に合っていた経緯があります。しかし、今後は幅広い非海運の事業を強化していく以上、横比較のため、使用するバランスシートの大きさに対してどれだけのリターンがあるかを示す指標は物差しとして必要になってくるでしょう。ROAの概念の拡張を含め、重要な課題として、検討していきたいと考えています。

大西 リスク管理について別の話を申し上げますと、商船三井はここ数年、「メガトレンド予測」という面白い取り組みを行っています。IEA( 国際エネルギー機関)のWEO(ワールド・エナジー・アウトルック)をベースに、商船三井独自の知見を加えた将来予測です。環境要素、経済、人口動態など、様々な要素が我々の事業に大きく影響します。海上輸送事業への影響では、社会が環境要素への取り組みをどこまで求めるようになるか、またできるのかの影響がもっとも大きいでしょう。幅広く予測を立てていますので、投資家の皆様が懸念されている保有船の座礁資産化のリスク想定においても判断材料となると思います。ただし、リスク管理への活用という意味では、まだまだ途上にあると思います。社外取締役として関わる中で、目に見えて進歩していますので、更なる発展に期待しています。

取締役会長 池田 潤一郎
ガバナンス・ミーティングを終えて

今般、機関投資家の皆さんと社外取締役が直接対話をする機会を初めて設定しましたが、コーポレート・ガバナンス審議会会長の立場で、いくつか気づいた点がありました。
一つは、明確なご質問をいただくことによって、各々の社外取締役が何に重点を置いて取締役会に臨まれているかが再確認できたことです。
そして、商船三井の取締役会がリスクテイクを含めたコーポレートガバナンス強化に向けて、着実に進歩を続けていると自信をもっていること。
しかし、まだまだ課題は沢山あると認識していることを改めて明確に確認できたことは非常に大きな収穫であったと感じています。

社外取締役(2022年度コーポレート・ガバナンス審議会 会長 大西 賢)