第二話 フェリー物語「時代の要請とともに」


フェリーの明日

2010年1月公開

これまでにご紹介した技術の集大成として、私たちが今、5年後技術的に実現可能と考えるフェリーの未来像をここにご紹介します。

3大特長

(1) 燃料はLNG
(2) 陸上電力プラグイン
(3) 快適性の重視

(注)(1)(2)の導入と新技術の複合採用で、現在の当社グループフェリー(燃料はC重油)と比較し、1航海あたりCO2:50%、NOx:90%、SOx:98~100%、PM(煤塵=ばいじん=などの微粒子):98%の排出量削減を達成する。

CO2削減効果

CO2削減項目27の要素により、CO2排出を35%削減することが可能となります。
また、環境負荷の低い1 LNGを主機・発電機の燃料とすることで、CO2排出50%削減を実現します。

ISHIN-Ⅱ LNG燃料使用 陸上電力プラグイン 自然エネルギー利用 推進効率最適化 摩擦抵抗低減 機関システム効率化 船体最適設計 快適性の重視

ISHIN-Ⅱ

維新から名づけたこの船名のアルファベットには、「Innovations in Sustainability backed by Historically Proven, Integrated Technologies」と、「どんな経済環境にあっても、企業の成長持続と地球環境保護との両立を目指す当社の、歴史に裏付けられた技術革新」との意味をこめています。

“未来への鍵は歴史に”をキーワードに、商船三井は更なる技術革新を目指し邁進していきます。

航行イメージ
LNG燃料使用 → CO2排出25%削減

従来のフェリーが主に使用しているC重油に比べ、単位熱量あたりのCO2排出量が20%以上少ないLNG(液化天然ガス)を主機と発電機の燃料とし、CO2の排出を大幅に削減する。

NOx・SOx・PM(煤塵=ばいじん=などの微粒子)の排出も、LNG燃料は各々90%・98~100%・98%少ないため、環境負荷を大幅に下げることが可能となる。

LNGを燃料として使用する場合、C重油と比べて単位重量当たりに含まれる熱量は高いが、C重油に比べて比重が約半分のため、C重油のおよそ2倍の容積の燃料タンクが必要。このため必然的に、航続距離が長い外航船よりも内航フェリーのような航続距離が短く、寄港地が決まっている船には、LNGを燃料として使用するのが最適である。

LNGを燃料としたフェリーは、環境に対する規制や意識の高いノルウェーでは既に実績があり、ノルウェー船級協会(DNV)では規則がある。IMO(国際海事機関)でもこのDNVの規則を基にした国際規則が固められつつあるため、国内法もこれに準じた内容となる予定。

LNGを燃料として使用する技術そのものは、ほとんどのLNG船で採用されている。最近では輸送中に気化した天然ガスと重油を切替えて燃焼できるガスエンジンも、ボイラーと蒸気タービンを使用した推進機関と同様に一般的になっている。

LNGを運搬する当社運航LNG船“LNG PIONEER”

閉じる

陸上電力プラグイン → CO2排出8%削減
陸上電力プラグインイメージ

陸上設備からの電力供給(*)を受け(=陸上電力プラグイン)、船内で必要となる電力として使用し、かつ港内航行に必要な電力を本船の2次電池に蓄電することで、港内航行および停泊中のゼロエミッションを実現する。

フェリーは接岸時間が長いため、これらの電力需要を陸上からの電力供給によって賄うことができれば、港内で大幅なCO2削減効果が期待される。

(*) 陸上設備からの電力供給
現在、国土交通省が進める「港湾における温室効果ガス削減対策」の一環として、停泊中の船舶への陸上電力供給が一例として上がっており、具体的には大阪南港でモデルケースとして整備することが既に決定。(2009年度中に整備予定)
他にも、北九州港などでも同様の構想がある。

閉じる

自然エネルギー利用 → CO2排出2%削減

太陽光発電

太陽光パネルを船体最上面に約1,000m2、船内窓には太陽光発電フィルムを約200m2貼り付け、合計約1,200m2、発電量 最大200kWの電力を確保する。
さらに船室の窓全面に光透過性太陽電池フィルムをはり付けることで、視界の制限を最小限に留めつつ客室への入射光を軽減する事が可能となる。

2次電池

合計4,000kWhの2次電池(リチウムイオン電池)をユニット化し積載する。
この自然エネルギーと航行中の余剰エネルギーを2次電池に電力として充電し、港内航行および停泊中のゼロエミッション実現のための陸上電力を補う

遮熱ペイント

当社グループ運航フェリーの甲板全面へ塗装した遮熱ペイント

当社グループ運航フェリーへの実証試験を行い、効果を確認した遮熱ペイントをフェリーの甲板全面に塗装。船室内部の温度上昇抑制、並びに冷房機運転電力を削減する。

閉じる

推進効率最適化 → CO2排出18%削減

船の推進器であるプロペラについて、従来型の機関駆動推進方式と電気推進方式を組み合わせたハイブリッド二重反転プロペラ(*)推進方式を採用することで、従来型フェリーよりも推進効率を改善しCO2排出を大幅に改善することが可能となる。

港内においては、主機関と船内発電機を使用せず、電気推進方式のプロペラのみの稼動で運航することで、操縦性能もアップしながら、港内航行および停泊中のゼロエミッションを実現する。また、360度回転できる電気駆動プロペラを採用したことで強風時などのタグ支援を減らすことも可能となるため、タグボートからのCO2排出も削減することが期待される。

前方のプロペラ船尾側には、当社が開発し多くの船舶に採用されている省エネ装置のPBCF(*)を改良させた次世代型PBCFを配備することで、燃費削減効果の向上をさらに追求する。

(*) 二重反転プロペラ
プロペラを前後に配置し、互いに負荷を分担し、逆方向に回転させることで、前方のプロペラの回転流エネルギーを後方のプロペラで回収し推進効率が大幅に向上する。

(*) PBCF
プロペラ・ボス・キャップ・フィンズの略。
プロペラ後流中のハブ渦エネルギーを回収し、5%の燃費削減効果が確認されている。
また、平成12年度国土交通省の「エコシップ」プロジェクトでも5%の省エネ効果カウントが認められた。

閉じる

摩擦抵抗低減 → CO2排出7%削減

船底空気層潤滑

船底空気潤滑と潤滑空気層の再循環イメージ

船首部船底から空気泡を吹き出し、この空気泡が空気層となって船底を覆うことで船の摩擦抵抗を軽減する技術を利用する。
この際、吹き出した空気泡を船尾部船底に設置したスリットから回収し、船内で再循環・再利用することで、空気泡そのものを作り出すエネルギーを最小限に留め、装置全体としてのエネルギーロスを最小限にする。

超低摩擦型船底塗料

塗料を被塗物に塗装すると目視では確認できない微細な凹凸が発生する。この塗膜表面に水を捕捉させること(ウォーター・トラッピング)により凹凸部分を減少させ摩擦抵抗を少なくするというメカニズムの塗料を採用する。
このウォーター・トラッピングメカニズムの効果により自己研磨した塗膜表面は更にスムーズな表面になる。
この超低摩擦型船底塗料の効果を実船実験により検証し、大幅な燃費削減効果が確認された。
今後更に実船検証を進めていくことで更なる燃費削減効果が期待できる。

閉じる

機関システム効率化 → CO2排出3%削減
天然ガスと重油を切替えて燃焼できるガスエンジン

主機への燃料供給量を航海中の海気象による主機の負荷変動に対応して電子制御し、最適燃料供給量で運転する。

LNGを主機・発電機の燃料とすることで排気ガス中のSOx成分がほとんど含まれないため、SOxやススと水分が反応して起こる配管などの硫酸腐食を懸念する必要がない。C重油を使用した機関よりもさらに高効率で、排気ガス中の熱エネルギーを回収(*)、再利用することが可能となる。

同時に、船内発電機を太陽光パネル及び2次電池との組み合わせで効率の良い運転を行い燃料消費量の低減を行えるよう機関システムの効率化を図る。

(*) 排熱回収の例
排気ガスが持つ熱エネルギーを利用した発電など

閉じる

船体最適設計 → CO2排出2%削減

水面下の形状を大幅に見直すことで、船体最適設計を追及し更なる燃費削減効果を追求する。

閉じる

快適性の重視

「船に泊まろう」をキャッチフレーズに、快適な移動空間の提供を追求する。

推進効率最適化に伴う主機の小型化と免震設計により、低振動と静粛性を高める。
ITを使った乗船手続きの簡素化、乗用車専用のランプウェイの設置による乗下船の迅速化など、顧客の視点に立った装備とサービスを提供する。

閉じる