第三話 舶用エンジン物語「省エネ技術と大型化の追求」


舶用エンジン歩み

2010年6月公開

海上輸送による貿易量の増加に伴い、船の大型化が進みました。
同時に大型貨物船を推進するエンジンも発達しました。

第二次世界大戦以前

最初の蒸気船「秀吉丸」竣工

イギリスで明治7年(1874年)、世界最初の三連成蒸気機関を装備した船が竣工し、そのわずか4年後の明治11年(1878年)、同機関を採用した当社最初の保有船「秀吉丸」が竣工しました。「秀吉丸」は福岡県三池港から長崎県口之津港への、三池炭輸送に使用されました。

秀吉丸

当社初のディーゼル船

内航での国内最初の大型ディーゼル商船「音戸丸」と、外航で国内最初のディーゼル商船「赤城山丸」が、大正13年(1924年)に竣工しました。
この2年後の大正15年(1926年)、国産ディーゼル第1号機を搭載した外航船として「もんてびでお丸」が、竣工しました。

赤城山丸

4サイクルディーゼル機関を、主機に使用しました。

国産ディーゼル第1号機
もんてびでお丸

「もんてびでお丸」には、大出力(7000馬力)の2サイクル機関が搭載されました。

排気ターボ過給機

機関改良が着々と進められ、昭和6年(1931年)には「那智山丸」の主機関(4サイクル機関)に、同サイクルのエンジンとしては初めて「排気ターボ過給機」が搭載されました。

那智山丸
第二次世界大戦後
高度成長期

戦後の技術革新

戦後最初の注目すべき技術革新は、難燃性で粘度が高いためにそれまで利用できなかった低質油(C重油)をディーゼル機関に使えるようにしたことです。海運会社と造船会社が一丸となって協力した成果でした。昭和26年(1951年)の「あとらす丸」と翌昭和27年(1952年)の「淡路山丸」では、この低質油使用を実現しました。低質油は価格が安いため、この革新は運航コストの削減に大いに貢献しています。

あとらす丸
淡路山丸

次の技術的躍進は「大型2サイクルディーゼル機関に排気ターボ過給が実用化された」ことです。4サイクルについては戦前から装備されていましたが、4サイクル機関から遅れること22年後の昭和28年(1953年)、「有馬山丸」の換装用として日本の造船所で製作された主機関から、2サイクル過給機関(大出力・低燃費)の歴史が始まりました。

有馬山丸

2サイクル機関の採用により、出力35%増大、燃料消費率8%減という画期的な成果を得ました。
現在の外航海運主機関は、ほとんどが2サイクル過給機関となっています。

機関室の自動化

金華山丸ブリッジの遠隔操縦装置

昭和30年代、乗組員の減員を志向する動きと共に、船舶のオートメーション化という課題に新技術を積極的に取り入れることで挑みました。昭和36年(1961年)、世界最初の機関室自動化船として「金華山丸」が竣工。機関室の集中監視計測や船橋からの主機操縦など、自動化が可能になりました。

金華山丸

船型の巨大化と大出力機関

昭和40年代から船型の巨大化や貨物船の分化・多様化が急速に進み、多種類の専用船が建造され始めました。素材産業のベルトコンベヤーの役割を海運が果たすようになったり、また自動車輸出のために新機軸の専用船が出現したりするなど、質量ともに大変革を遂げた時期でした。

巨大化が最も急速かつ大規模に進んだのは、タンカーです。昭和46年(1971年)、タンカーの「三峰山丸」は22万トンまで巨大化しました。主機関も大出力化され、当時世界最大のディーゼル主機関(38,000馬力)を搭載。
鉄鋼原料需要増大に応えて、鉄鉱石専用船の巨大化も進みました。昭和47年(1972年)、16万トンを超える大きさの鉄鉱石専用船「千鳥山丸」が竣工しました。

三峰山丸
千鳥山丸

省エネ技術

大型化の半面(省エネがこれほど強く叫ばれるようになる以前から)、新造船の建造計画のたびに当社はその時代で考え得る最良の省エネ船を指向してきました。
省エネ装置の一つが、主機からの排気熱エネルギーを回収することにより蒸気発電機を駆動し、ディーゼル発電用の燃料をセーブできるシステムです。これは昭和40年(1965年)に竣工した「常盤山丸」へ他の邦船社に先がけて採用して以来、数多くの当社新造船に採用しました。
当時採用されていた排熱回収発電システムの概念はISHIN-Ⅲの原点ともなった技術です。排気ガスの熱を利用し、蒸気を発生させて発電機タービンを駆動するというシンプルな装置でした。

昭和48(1973年)年の第1次オイルショックを契機として、燃料価格が急騰。船舶の運航費に占める燃料費の割合が異常に増大しました。このような状況打破への対策が種々実施された中で、主機換装による燃料削減の効果は40~50%にもなり、その工事費を考慮しても十分メリットのあるものでした。この判断のもとに昭和55年(1980年)、コンテナ船「らいん丸」の主機換装工事を実施しました。

常盤山丸
らいん丸
オイルショック後

世界最初の超省エネルギー型ディーゼル機関

昭和57年(1982年)、世界最初の超省エネルギー型ディーゼル機関を搭載した「はりえっと丸」が竣工。
同機関の熱効率は50%で、全世界で就航中の船で記録的な低燃費を誇っていました。この船の機関プラントでは、「常盤山丸」で使用したものよりも進歩した排熱回収発電システム(Advanced Turbo Generating System)や軸発電機などを採用しました。

はりえっと丸

当時から機関プラントにおける省エネ技術は多く存在し、燃料の持つ熱エネルギーの70%近くまで有効に利用されるまでに技術が進歩していました。(ただしプロペラ軸に伝達されるのは40~50%)

「はりえっと丸」をベースに、昭和60年(1985年)には発電システムにコンピューター制御を取り入れるなどの省エネ技術を追求した船舶が竣工しました。平成元年(1989年)年竣工の「愛宕山丸」には、低回転・省燃費主機関にTurbo Compound System(*)(主機駆動用排ガスタービン)などを採用。 更なる省エネを図りました。

愛宕山丸

(*) Turbo Compound System
主機からの排気ガス余剰エネルギーでタービンを回し、動力を直接軸に戻すシステム。


三連成蒸気機関

「蒸気の持つエネルギーでシリンダーのピストンに往復運動を起こし、さらにピストンの往復運動を回転運動に変える」のが三連成蒸気機関の原理です。

これは蒸気機関車と同じく往復動機関の原点と言えます。

倒置立型機関(1850年代)
首里丸のレシプロエンジン

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4サイクル機関

ディーゼル機関では「シリンダーへの空気の吸入→その圧縮→燃料の噴射→燃焼ガスの膨張→仕事を終えた排気ガスの大気中への放出」という動作が繰り返されます。
これをサイクルと言い、1サイクル中にクランク軸の2回転を必要とするものを4サイクル、1回転でよいものを2サイクル機関と呼びます。

4サイクルでは2回転に1回の爆発があるのに対して、2サイクルでは1回転ごとに爆発が行われるので(他の条件が同じだとすると)「後者は出力が2倍」ということになります。
このため一般的には、大出力が必要な主機には2サイクルが用いられます。これに過給機を装着することで、大出力・高効率の主機関が可能となります。

4サイクル機関の作動図
2サイクル機関の作動図
(排気のある場合)

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排気ターボ過給機

エンジン(主機)のシリンダーに空気を送り込む場合、あらかじめ空気を圧縮し、比重を高めた濃厚な空気を送ってやると、燃料噴射量を多くできるので発生馬力が大きくなり、燃料消費率も下がります。このようなやり方を過給といいます。

空気を圧縮する装置を過給機といい、通常排気ガスの残存エネルギーを利用したタービンで駆動されるので排気ターボ過給機と呼ばれます。

現在のディーゼル機関では、排気ターボ過給機付きが過給機なしの場合に比べて50%近い出力増が得られるため、すべての機関に過給機が装備されています。

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換装

船舶の運航費の中で、燃料費は非常に高い割合を占めています。

そこで熱効率の高い主機関に交換することで、工事費を考慮しても燃料節減効果が高い場合などに実施されることがあります。

有馬山丸の場合は4サイクル主機関から、2サイクル過給機関に換装することで燃料費の削減を実現しました。

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主機換装

本船の運航費に占める燃料費の割合は非常に高いものです。

そこで熱効率の高い主機関に交換することで、工事費を考慮しても燃料節減効果が高い場合などに実施されることがあります。

「らいん丸」の場合はタービン主機から、ディーゼル主機への主機換装による燃料削減効果は約40%にもなり、その工事費を考慮しても十分メリットがありました。

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機関プラントにおける省エネ技術

ディーゼル機関の低燃費化(筒内最高圧力の上昇、ロングストローク化、過給方式の改善、ディレーティング、減速ノズルなど)、燃焼排熱エネルギーの回収(蒸気タービン発電機、冷却水利用、吸収式冷凍機など)、軸発電機、余剰電力推進加勢、補機類の効率化などの技術が省エネに貢献。

戦前の蒸気機関車の熱効率が10%未満であったことを考えると、舶用機関の省エネ技術の進歩は驚異的なものでした。

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省エネ技術を追求した船舶

これまで採用されてきた省エネルギー諸施策に加え、主機駆動発電機(船内余剰電力を推進加勢として利用するためのモーターとしても使用可能)、パワーセービング・マネージメント(蒸気タービン発電システムと主機駆動発電システムとの負荷の最適配分をコンピューターで制御)などを採用しました。

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